1.1929年〜1930年 爛熟時代の前夜

 中京商の夏3連覇が達成される少し前は広島商・第一神港商(現・市神港→神港橘)の黄金時代だった。
 第一神港商は29春・30春と連覇。29年は西垣徳雄(後の国鉄監督)、30年は岸本正治(後に阪急)がエースで、二人以外にも中根之(後に名古屋他、36秋にはプロ野球初の首位打者)、後藤正(後に名古屋)、倉信雄(後に巨人)などがいた。岸本は小学校時代から速球投手として騒がれており、西垣卒業後には、コントロールにも磨きがかかり、30春には43年間大会記録として君臨した1大会54奪三振を成し遂げている。
 広島商も29夏・30夏と連覇。監督は名将石本秀一で、超スパルタ野球で鍛え上げられたチームだった。伝説の日本刀の刃渡り練習もこのころのもの。4番には灰山元治(後にライオン)がおり、浜崎忠治(後に中日)、鶴岡一人(後に南海監督)などがいた。

 一方主役の3校はというと、明石中は30春に出場。開校8年目にしてこれが春夏通じて初出場であった。エースは1年生から務めている楠本保。夏の予選参加は1928年が最初。翌29年に楠本が入学して一気に強くなった。初戦に北陸の強豪敦賀商(現・敦賀)を破った後、次の試合で松山商と対戦。松山商は1902年に開校し、その年に野球部は創部。25春に優勝後、選抜には毎年のように選ばれ、夏もベスト4に2回残るなど既に常連校であった。エースは1年生のころからレギュラーだった矢野清良。試合は打線が矢野を全く打てず4安打無得点。楠本も小学生時代、相手校に「楠本のボールは振っても当たらない」と徹底的なバント作戦をされたという逸話が残っているが、松山商には歯が立たず、同級の峰本三一との合わせて10失点。良いところなく0対10で大敗を喫している。

1930春出場メンバー
明石中 松山商 広島商 第一神港商
守備 名前 学年 名前 学年 名前 学年 名前 学年
楠本保 2 矢野 清良 5 灰山 元治 4 岸本 正治 4
石井正 5 藤堂 勇 3 土手 清 4 高島 忠
三国女三 5 阿部 弘 5 太田 稔 4 後藤 正 5
厚見 豊逸 5 寺内 一隆 5 田原 主一 2 島 巌夫
浅原 芳夫 5 三森 秀夫 3 杉田 栄 5 清瀬 正男
戸田 俊夫 5 高須 清 3 保田 直次郎 4 浜崎 隆 5
枝吉 滋 5 山下 力 5 久森 忠男 4 高瀬 二郎 5
田中 義雄 5 尾茂田 叶 4 田中 工 5 釣 秀雄
山崎 友吉 5 塩崎 清隆 竹岡 義綱 4 平田 克治
桜井 義継
峰本 三一
4
2
宇野 文秋
高市 茂夫
浅田 茂
中村 時雄
亀井 巌
3
0
0
0
0
浜崎 忠治
鶴岡 一人
八林 茂樹
驥本 実
吉井 正人
3
2
5
4
2
村上 正清
外田 数政


30春準々決勝 試合時間2時間55分

チーム 1 2 3 4 5 6 7 8 9 得点
明石中 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0
松山商 2 0 0 0 1 7 0 0 10
明石中 打数 安打 松山商 打数 安打
3 三国 女三 2 0 6 高須 清 4 2
4 厚見 豊逸 4 2 3 阿部 弘 2 1
7-8 田中 義雄 4 0 8 尾茂田 叶 4 0
9-1 楠本 保 4 0 1 矢野 清良 4 2
2 石井 正 4 0 2 藤堂 勇 4 2
8-9 山崎 友吉 4 2 4 寺内 一隆 4 1
5 浅原 芳夫 3 0 5 三森 秀夫 4 0
H 桜井 義継 1 0 7 山下 力 4 1
7 枝吉 滋 2 0 9 塩崎 清隆 4 0
1 峰本 三一 1 0
6 戸田 俊夫 3 0
32 4 4 2 0 0 4 34 9 8 2 3 5 4
失策=山崎2・戸田2 三塁打=藤堂・高須・矢野
失策=高須2・寺内・山下

 明石中に勝った松山商はそのまま決勝まで進出。しかし、先述の第一神港商岸本に10奪三振を喫し、21歳の4番高瀬二郎に満塁ホームランを打たれ、いいところなしで敗退している。松山商は夏も出場したが、春の初戦に破った諏訪蚕糸に逆転負けでベスト8。諏訪蚕糸はそのまま決勝まで行ったが、広島商に2対8と大敗した。

30春決勝 試合時間1時間55分

チーム 1 2 3 4 5 6 7 8 9 得点
松山商 0 0 0 0 0 0 0 0 1 1
第一神港商 0 0 4 0 1 0 0 1 x 6
松山商 打数 安打 第一神港商 打数 安打
6 高須 3 0 3 後藤 4 2
3 阿部 4 0 6 浜崎 2 1
8 尾茂田 4 1 7 高瀬 4 2
1 矢野 3 0 1 岸本 2 0
2 藤堂 3 1 8 4 1
4 寺内 3 1 2 高島 4 0
5 三森 4 0 4 3 0
7 山下 2 0 5 清瀬 3 0
9 塩崎 3 0 9 平田 2 0
29 3 9 4 1 0 0 28 6 3 5 1 0 2
三塁打=藤堂 二塁打=尾茂田
捕逸=藤堂
本塁打=高瀬(満塁) 失策=後藤・浜崎
併殺2


 中京商はというと、29夏、30夏と愛知予選は突破したものの、東海大会で愛知一中、愛知商に敗れ、春も30春に補欠には選ばれたものの全国大会には出場できないでいた。そのため、当時の名門和歌山中に練習試合を申し込んでも「甲子園に出場しないチームとは試合をしない」と断られてしまっている。

2.1931春 初登場、中京商

中京商・松山商・明石中の三つ巴

野球回廊

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