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1936年秋総評(大阪朝日新聞 芥田武夫)

秋の成績では巨人とタイガースの決勝闘いとなった。この結果はチーム実力の当然かくあらしめたものと見てよい。巨人軍の優勝殊勲の第一に挙げられるべきは沢村投手である。彼の投げ下ろす速球、鋭角的のドロップは当代投手の第一人者である。各チームの打撃法が巨人沢村を目標として形付けられスイングが小さくなりつつあり、ためにその反面速球投手にあらざる異型投手が案外効果を収め、また本塁打の数も減少するような傾きは見逃せない事実である。沢村の次に投手の表看板を掲げても恥しくないのはタイガースの景浦投手であろう。投手としての第一条件は何と云っても球威、球速であり、この何れを欠くも職業野球の主戦投手として認め難い。またこの意味においてセネタースの野口、金鯱の内藤など将来性はあるが、景浦、沢村に対しては経験薄きために貫禄を欠く嫌いがある。阪急の北井は関大当時の速球は鳴をひそめ体力的に難がある。巨人が沢村を大切にするのも当然で沢村に匹敵する投手は他チームに一寸見当たらない。巨人の強味は沢村の他にチームの纏りである。選手に英雄的存在が消えて一つのチームに成り切っているところに試合のうまみが出てくる。

巨人と正反対のチームは阪急である。猛打者が多いだけにすべて野心に満ちている。順風に乗すればこれほど恐ろしいチームはない。また興味の点からいっても見ごたえのある痛快な試合をしてくれるので非常な人気がある。しかし主力打者が牛耳られたとなると、阪急びいきには歯がゆいほどチーム力に懸隔が出来る。打線にムラのあるのは強力打法の欠点でやむを得ないが、宮武、両山下、堀尾以外の打者の非力がこの欠点に拍車をかけている。

優勝を逸したタイガースは大学出の錚々(そうそう)たるところと中学球界の俊英を網羅せるところ、創立当時からタイガース強しとの呼び声を高唱せしめたが、はじめはセネタースと巨人が苦手でやや評判倒れの感があったが、その後徐々に自力を示し確実味を増してきた。選手の豊富な点から考えればもっと強くなり文句なしに覇権を獲得し得るのではないかと思われるが、実際はいつも惜しいところで優勝を逸している。どこかに欠点がなければなるまい。選手を二様三様ののポジションに使用して一ポジションに専念せしめない不徹底さが災いをなしているのではなかろうか。

セネタースと金鯱には春の元気が無いというよりはむしろ秋には他のチームの技術が非常に向上したところが、その不信の主因である。セネタースの野口投手が今秋さっぱり駄目だったのがセ倶不振の第二因であろう。セ倶よりも凋落甚だしいのは金鯱である。わずかに内藤投手の進境著しきものがあるのみで、他の選手は進歩どこか退歩をさえ示している。

今春大東京と共に飛び離れて弱いので慣習から常に冷笑をもって迎えられていた名古屋は桝、中根を中心とし高橋、岩田と真摯なプレイが報いられて大物を喰うことしばしばあり、殊に捕手ハリスは外人選手ではあるがよくチームの気分に融合していささかも気分的に損せられることなく、名古屋の一威力を示している。大東京は現在独り置き去りの感があるが水谷、遠藤その他選手の素質においては大した遜色はないが練習不足の感が入多い。

巨人の沢村を筆頭に阪急の石田、金鯱の内藤、タイガースの藤村、山口らは職業野球の拾った出色の選手で、その多くはまだ大学選手を凌駕する人気を掴むには至らないが技術的には同等の威力を齎(もたら)している。

 

日本野球史十二年より

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